君を守るよ、疾風のごとく!

このブログでは「ハヤテのごとく!」の主人公、綾崎ハヤテを全力で応援してます。 ハヤテFCも運営中。

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「春の訪れは苦難の後に」

FC会員の瑞穂さんからSS作品を寄贈して頂いたので、ここで公開させて頂きます。

ハヤテのごとく!を本当に好きな人がまだいるということ、嬉しい限りですね。
瑞穂さんから本ブログへの提供は2作品目となりますが、本当にありがとうございます!

こうしてハヤテについての2次作品読めるの嬉しいです。

感想は記事へのコメント、もしくはメールフォームにてお願いします。
頂いたものは、私からご本人にお伝えします。

ではでは、追記からどうぞ!



「春の訪れは苦難の後に」


 2005年3月も半ばを過ぎたある日の早朝、東京都練馬区の住宅街は人々が始動するにはまだ早いので比較的静まり返っている。
 その一角にあるマンションの一室、西沢家に綾崎ハヤテ君は何故かいた。
 白皇学院の生徒でありこの春から2年生に進級する。同世代の男の子よりはやや背が低いが、バイトと運動で培った鋼の筋肉を持つ、温和な天然ジゴロで、執事の正装が似合っている。
 三千院家の執事たる彼がどうしてお屋敷にいないのかについては後述するが、現在ハヤテ君は西沢家で朝食を作っていた。
 そうこうしているうちに、このお話の主人公である西沢歩さんが起きてきた。
 都立潮見高校に通う長身の可愛い少女で、ハヤテ君とは元クラスメイト。特にこれといった特徴のない普通の高校生だが、人当たりはよく明るく前向きな性格の持ち主である。
「おはようハヤテ君、いつも朝からありがとう」
「おはようございます、西沢さん。いえいえ、こちらこそいつもお手伝いをしていただいてどうもありがとうございます」
 明るく元気な笑顔で挨拶する歩さんに対して、ハヤテ君も温かい笑顔で挨拶を交わしていた。
「もう、歩でいいって言っているのに」苦笑を浮かべる歩さん。
 2人で朝食を作り、掃除や洗濯といった他の家事も済ませたところで、唐突に歩さんが口を開いた。
「ねえハヤテ君、ハヤテ君はこれまで多くのバイトをこなしてきたんだよね?」
「はい、そうですけど、どうしましたいきなり?」
「私もお金が欲しいからバイトしたいんだけど、何かいいバイトないかな?」
 ハヤテ君が考えあぐねていると、ひとつの包みが目に止まった。
「西沢さん、あの包みってこの前僕が差し上げた、ホワイトデーのクッキーじゃないですか?」
 言われて歩さんは顔を紅潮させると、クッキーの包みとハヤテ君を交互に見て俯いた。
「そ……そうだったね。あの時はどうもありがとう、ハヤテ君。
 あれから食べたけどとても美味しかったよ」
「いえいえ、どういたしまして。そういえばヒナギクさんの好意もありまして、ヒナギクさんのお宅でそのクッキーを作ったんですよ」
 そう言ううちにハヤテ君に妙案が浮かんだ。
「だったら西沢さん、『どんぐり』でバイトしませんか?
 喫茶店は接客業として健全なバイトの代表ですし、あそこのマスターとは顔見知りですから。それにヒナギクさんも働いていますし、僕もそこで働きたいんですよ」
 ヒナギクさんの名前が出たので紹介すると、フルネームは桂ヒナギクさん。桃色の腰まである長髪が目を引く可愛い女の子である。1年生から白皇学院の生徒会長を務めており、歩さんやハヤテ君とは同級生。
 容姿端麗、成績優秀、公明正大な学院のアイドルで、男女問わず人気が高い。ただし気は強くボーイッシュな一面も持っている。
 ヒナギクさんの名前が出たので憂鬱そうな歩さんの表情が一気に晴れた。親友と想い人の2人と一緒に働けるのだから。バイト未経験の彼女にとってそのような環境で働くのは、大いにプラスになると言える。
「そうだね、それじゃあ一緒に働こうかな。よろしくねハヤテ君!」

 両親とのやりとり、『どんぐり』においての採用及び自己紹介などは割愛。

        ****

 銀杏商店街の一角にある喫茶『どんぐり』。自宅兼用なのか2階建てになっており、茶色い看板にどんぐりのような丸い文字が書かれている。商店街というわりに人通りはさほど多くないので、お客さんも少ない。
 趣味で経営しているのか、店の内部はテーブル席だけでなくカウンター席も設けられている。流石に椅子は円くはないが。

 別の日、バイト中に歩さんはハヤテ君、ヒナギクさんと3人で他愛もない話をしていた。
 すると不意に、ハヤテ君が彼らしい話を切り出してきた。
「唐突で申し訳ありませんが、皆さんに感謝しなければいけませんね」
「いきなりどうしたの、ハヤテ君」
 目を丸くするヒナギクさんにハヤテ君は続ける。
「僕はこれまでずっと、働いてばかりの人生を送ってきましたが、愛情を注がれたことは殆どありませんでした。
 ですが昨年のクリスマス・イヴに公園で孤独だったところを救われて以来、ナギお嬢さまやマリアさんには執事として雇っていただき、白皇学院にも通わせていただきました。
 ヒナギクさんには時計塔に連れていってもらいましたし、この前のホワイトデー前日もヒナギクさんのお宅でクッキーを作らせてもらいましたよね。
 西沢さんにも前の高校時代からいろいろと助けていただきましたし、バレンタインデーにチョコレートをいただきましたから。本当にありがとうございます」
 ハヤテ君の姿勢を低くした感謝と思い出話に2人は顔を赤く染め、特に告白も絡んでいる歩さんは両手で頬を覆っていた。
「い、いいわよ別に。困っている人を助けるのは当然のことよ」
「こちらこそありがとうだよ、ハヤテ君。あの時ハヤテ君が助けてくれなかったら私はもうこの世にいないかもしれないんだよ。だから今度は私がハヤテ君を助けてあげなきゃ、それに今は私の家にいるんだから!」
 ツンデレなヒナギクさんと素直な歩さんの性格がそのまま表れた台詞である。
「……ちょっと待って。歩がハヤテ君に助けてもらった経緯を教えてもらえない? それにハヤテ君が歩の家にいるってどういうこと?」
 思わず聞き咎めてツッコむヒナギクさん。歩さんは過失というより自爆で赤くなったが後の祭りだ。ハヤテ君も赤くなり俯いていたが、何を思ったのか安心した顔つきに変わっていった。
「ヒナギクさんにならお話ししても大丈夫ですね。信用できますから」
 それを聞いた歩さんも安心したのか、落ち着いた表情になった。
「そうだね。ヒナさんは口が堅いし、何より私たちの親友だから」
「じゃあお話ししますけど、かなり長くなりますので覚悟してくださいね。次の章をまるごと使いますから」
 頬を染めるヒナギクさんに2人は詳細を明かしたのであった……

        ****

 バレンタインデーも終わった2月20日の日曜日、三千院家のお屋敷ではいつものように、執事のハヤテ君とメイドのマリアさんがナギお嬢さまのお世話をしていた。
 ところがナギお嬢さまが入浴中にハプニングが起きた。
 バスタオルを持ってきてほしい、と言伝を受けてハヤテ君がそれを持ってお風呂場へ向かうと、ちょうど彼女がお風呂から上がったところであった。
 即ち、ハヤテ君はナギお嬢さまの裸体に遭遇してしまったのだ。これだけならまだしも、髪を拭いてほしいという彼女の要望にお応えすることになり、あまつさえキスまでされたのだ。
 全て彼女からしたとはいえ、衝撃的な行動だ。年頃の少女が恥じらいを覚えない筈はない。これによりナギお嬢さまが落ち着くまで、ハヤテ君は主に今夜から3日間の休暇を与えられたのであった。

 夕方の曇り空の下、湖や馬場、緑豊かな私有林まで持つ、練馬区の半分を占める三千院家を出て、今夜泊まる場所を探し始めたハヤテ君。
 しかしハヤテ君にとっては珍しい休暇だが、休暇を貰ってもどこに泊まればいいのか分からない。まあ仕方がない、夜逃げやバイトに明け暮れて人付き合いがあまりできなかった潮見高校時代以前はもちろん、白皇学院編入直後ということもあってハヤテ君には友達が少なく、「頼れる」友達となるとほぼいないのだ。
 そうしているうちにお金に関する数々のトラブルに見舞われて、自動販売機の飲み物さえ購入できない程ハヤテ君の持ち金が尽きてしまった。
 夜も遅い負け犬公園は静かで、時々通りかかる車の交通量も少ない。自動販売機と電灯の光がほのかに彼を癒していたが、1時間前から降りだした雪には無力でしかなかった。ひとりうなだれていたときにこの雪、まさに弱り目に祟り目だ。
 防寒具は身につけていたものの、降り注ぐ雪、貧困、寂しい人間関係という、身も心も冷え切った夜にハヤテ君を1本の傘が、女神が救った。
「こんなところで何をしているのかな、ハヤテ君……」
「西沢さん……」
「そんなところに座っていると風邪ひいちゃうよ。何があったのか知らないけど、うちに来るといいんじゃないかな」
 こうして歩さんはハヤテ君を連れて、自宅のあるマンションへ向かうのであった。

        ****

 およそ10分後、歩さんの自宅があるマンションに到着した。近くの屋台はひっそりとしていたもののまだ多くの部屋で明かりは点いており、人の気配を感じさせていた。
 歩さんの自宅に招かれて、挨拶とバレンタインデー前にお邪魔した際の非礼を彼女の家族に詫びたハヤテ君は、歩さんの勧めで入浴していた。
「僕はここで何をしているんだろう。ここは西沢さんの家なんだよな……
 この機会に西沢さんともっと仲良くなりたいけど、とにかくこの前のような迷惑だけは掛けないようにしなくちゃ」
 そう決意したハヤテ君はそれから10分後にお風呂から上がり、歩さんの父から服を借りて着ていた。
「あ、お風呂上がったんだねハヤテ君。少しは温まったかな?」
「ええ、ありがとうございます」
 心なしか顔がやや赤いハヤテ君。敏感な歩さんはハヤテ君の真意に気づいていたものの、気づかぬふりでその場を過ごすと、一家揃って夕食にした。
 夕食の席でハヤテ君から3日間お屋敷に帰れないと聞かされたので、歩さんはこのチャンスを逃さないように、自宅への宿泊を提案したのだ。
 ハヤテ君にとっては願ってもない提案だが、残りの家族である両親と弟の一樹君が顔を曇らせた。曰く、3日間泊める事に異論はないが、年頃の少女がいるのが気掛かりだと。
 この懸念についても歩さん主導で払拭した。
 (なお、原作でハヤテ君が暇を与えられた2月20日までの出来事について、このお話では歩さんは全てを知っているとして進めていきますのでご了承ください)

 1年近く前の入学当初、他に車が走行していなかったカーブの多い坂道で、歩さんが下り坂を自転車で登校中、ブレーキの故障でカーブを曲がり切れず、危うくガードレールに激突して転落死するところだった。
 しかし意外にも激突による衝撃や道路に叩きつけられるケガ、坂から投げ出される恐怖などは一切襲ってこなかった。ドラマのようだが、ガードレール激突寸前にハヤテ君が両手で身体を持ち上げて助けてくれたのだ。その後、間違ってもハヤテ君がそれをネタにゆすったり他人に明かしたりはしなかった。
 ハヤテ君が三千院家の執事になって以来、お屋敷で主のナギちゃんをお世話して、料理・洗濯・掃除・裁縫といった家事全般、お使い等のお仕事も一生懸命にこなしている。それに鷺ノ宮邸の地下で展開された三千院家遺産騒動や三千院家でのバレンタインデーなどにおいて、ハヤテ君はごまかしたりせず自分の心中を吐露している。
 また潮見高校に入学して以来、普段からよく話しており一緒に遊園地へ遊びに行くなど、今でも親しく交流している事も付け加えた。

 以上から、ハヤテ君は優しくて素直で、誠実な少年なので信用できると。仲も良いから泊めても問題はないと歩さんが赤くなりながら断言した。
 このエピソードを聞いた3人は少し赤くなりながら安心した。
 あとはハヤテ君がどこで寝るのかという問題だが、一樹君の部屋で一緒に、若しくはリビングでと決まり、最大の難問も解決したのでハヤテ君を泊める障害はなくなった。
 こうして1日目は無事に過ぎていった……

        ****

 2日目の早朝、ハヤテ君はいつものように起きていた。泊めてもらっている身とはいえ、生活リズムは変わらない。
 着替えを済ませたハヤテ君はこれまたいつものように朝食を作っていた。そこへ平日ということで全員が早く起きてきて、登校や出勤の準備をしていた。因みにハヤテ君の服に関しては原作通り、制服、執事服ともに生徒会室に隠してある。
 歩さんもハヤテ君も別の学校なので、1日中一緒にいられないのが最初は寂しかった。それでも学校が終わればバイトでも家でも会えるからと気持ちを切り替えて、2人は登校した。
 そして放課後、2人はバイトを終えて帰路についていると、歩さんの表情が心なしか沈んでいるようにみえた。
「あの、西沢さん。いつもの元気がないですがどうかしましたか?」
「ハヤテ君……実は来週の学年末テストについてだけど、私全然自信がないの。どうしたらいいのかな……?」
「僕も自信ないですよ。お嬢さまやマリアさんに教えていただきながら勉強していますけど、赤点回避がやっとで高得点を取るのは難しいでしょうね」
 これは普通の少女からすれば羨ましい台詞だ。歩さんの周りには勉強ができる友人はいないが、ハヤテ君にはすぐ傍にいるのだ。しかも日常的に。
「だったら私も今度マリアさん達に教えてもらおうかな。けどこの3日間はハヤテ君と一緒にいたいから、勉強を手伝ってもらえないかな」
「いいですよ、こんな僕でよければ」
 この台詞を聞いて歩さんは輝いた。それはそうだ、勉強を見てもらえるし、好きな人と一緒にいられるから。
「それじゃあ今夜と明日の夜、よろしくお願いねハヤテ君」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。西沢さん」

 帰宅して夕食、入浴を済ませて歩さんの部屋で2人きり。歩さんとハヤテ君はテーブルを挟んでテスト勉強をしていた。
 やがて勉強も終わり、談笑していると、おもむろに歩さんが口を開いた。
「ねえハヤテ君、確認するけど明後日の朝までいるんだよね?」
 一瞬、虚をつかれたハヤテ君が首肯すると、
「なら、今夜と明日の夜は私の部屋で一緒に寝てくれないかな?」
 この言葉に青髪の少年は天を仰いだ。年頃の少年少女が同じ部屋で、というより一緒に寝るということはつまり、2人が一歩進んだ恋人関係になるのと同じであり、突き詰めて解釈すると、大人の階段を上るということだ。
 歩さんはハヤテ君と入学当初からの初恋を実らせたいので、このチャンスをものにしたい。一方ハヤテ君は初恋相手にフラれて以降、恋愛はしていない。彼の真面目な性格上、この提案を受け入れ難いのは歩さんもよく知っている。
 ところが次の瞬間、ハヤテ君の口から思いもよらない台詞が飛び出した。
「じゃあ同じ部屋で寝ましょうか。僕の起床時間は5時と皆さんより早いので、僕が早く起きれば一緒に寝てもばれないでしょう。それに僕としても西沢さんと仲良くなりたいですから」
 ハヤテ君の了承に歩さんも最初は驚いたが、提案を受け入れてくれたのを喜び、2人は歩さんの部屋で寝ることにした。

 もちろん大人の階段を上るわけもなく、3日目も無事過ぎて4日目。ハヤテ君がお屋敷に帰る朝、彼は歩さんの家族に泊めてもらったお礼を述べていた。
「いやあ、この3日間泊めてもらえなければ危うく凍死するところでしたよ。皆さんに大事にしていただいて本当にありがとうございました」
 笑顔のハヤテ君に対して、家族全員も温かい笑顔で応えていた。
「私たちも家事全般をしてもらって助かったわ、綾崎君。今度メイドとしてうちに来ない?」
「僕が女の子になったらそれも悪くないですね。その時はよろしくお願いします」
 歩さんの母の冗談にハヤテ君も冗談で返していた。西沢家とハヤテ君との距離が意外と縮まったようだ。
 歩さんは想い人が離れていくのが悲しそうだったが、バイトでまた会える、初恋を叶えるチャンスはまだまだあるとポジティブに考えていた。明るく前向きな彼女らしい。
 そしてハヤテ君に何か呟くと、彼もまた赤い顔で応じていた。

 こうしてハヤテ君の外泊は終わったのであった。

        ****

 三千院家のお屋敷に帰ってきたハヤテ君であったが、すぐさまお屋敷を出ることになった。先刻のように一時外泊ではなく、今度は追い立てられてしまったのだ。
 どういうことかというと、歩さんの家への宿泊は不問であったが、ナギお嬢さまの気に障ったのは、歩さんとハヤテ君が仲良く一夜を過ごしたことであった。
「ハヤテが好き」なナギお嬢さまの恋心というより、「ハヤテは私のもの」「私以外の女とくっつくなど許さない」「何でも自分の思い通りになる」という思い込み、或いは独占欲が結果としてハヤテ君を解雇してしまったのだ。
 誤解と分かり、早とちりで悔やんでも悔やみきれない過ちを犯してしまった、大事な人をまた1人失ってしまった金髪ツインテールの少女は数日もの間泣きじゃくった。同居しているメイドさんに慰められながら。

 その後ハヤテ君は西沢家に居候として引き取られた。
 もちろんナギお嬢さまから、もう2度と苦しめたりはしない、また執事として私の傍にいてほしいから戻ってきてほしいと強く慰留された。ナギお嬢さまとしては、誤解とはいえ告白されたので愛する人の傍にずっといたい、ハヤテは誰にも渡さないというのが本音だ。
 しかしハヤテ君曰く、もう今回のようなトラブルに巻き込まれたくはない、自分に変わらない愛情を注いでくれる、優しい人の傍にずっといたいという理由で慰留を拒否した。人生の大半を苦労やトラブルの連続で生きてきたハヤテ君にとってはもう懲り懲り、振り回されるのはもう御免であり普通の生活を送りたいというわけだ。
 ハヤテ君の学費及び生活費、またおよそ1億5000万円の借金の残高については、ナギお嬢さまが解雇の大きな代償として今後全額を支払うことになった。
 こうしてハヤテ君を縛っていた鎖がちぎれて解き放たれたのであった。

        ****

「……という経緯なんですよ」
 2人が詳細を明らかにすると、予想通りヒナギクさんは赤くなっていた。
 この時期にはハヤテ君とヒナギクさんの不仲も解消しているだけでなく、ヒナギクさんがハヤテ君に片想いしているので、ヒナギクさんにとっても初恋相手と一夜を過ごして、あまつさえ同居するのはこの上ない夢であり望みだ。
 歩さんにとってもそれは同じであり、今後とも一緒にいたい、居候としてではなく恋人同士として付き合いたいと願うことに変わりはないのだ。

        ****

 ところで初恋とはその名称の通り、異性に初めて愛情を抱く、或いは恋愛感情から好きになることだ。
日本人で、歩さんのように16歳以上になって漸く初恋を経験する人は全体の僅か4・8%に止まり、それ以前では94・0%に上る〔マイナビニュースより、ワタベウエディング調べ〕。
 また、初恋相手に想いを伝えられたのは23・6%であり、実ったケースはそのうち約半数の47・5%〔マイナビニュースより、銀座ダイヤモンドシライシ調べ〕。


        ****

 閑話休題。2005年3月13日、ホワイトデー前日。西沢家にて。
 バレンタインデーにチョコレートを貰った男性が相手の女性にお返しをする日を前に、ここにもお返しに悩む少年がいた。
「そういえば明日はホワイトデーだったなー。先月泊めてもらった際にも『ホワイトデー、楽しみにしていてください』と言った手前、西沢さんに喜んでもらえるものを作らなきゃ」
 そう言いつつ、実はまだクッキーを作っていなかったりするハヤテ君。
 小麦粉(薄力粉)、砂糖、バター、卵などの材料はあるので、今回はここで作ってみよう。
 そう決めかけたところで妙案が浮かんだ。
「そうだ、ヒナギクさんも女の子からたくさんチョコレートを貰っていたから、ヒナギクさんのお宅で一緒に作ろう」
 そう決めたハヤテ君はヒナギクさんに連絡して、ことの経緯を話した上で、ヒナギクさんのお宅でクッキーを作らせてもらえないかお願いした。
 その結果、了承を得る事ができたので、家族に連絡した上でヒナギクさんのお宅へ向かった。なお材料は家庭のものなので、道中で銀行とスーパーに寄って自腹で材料を調達することになった。

        ****

 よく晴れたお昼過ぎ、ハヤテ君は財布と愛用のエプロンを持って自宅を出た。
 3月中旬ということもあって、冬のような寒さはないが風はまだまだ冷たい。
 午後2時を過ぎ、お金を下ろしてクッキーを作る材料の買い物を済ませたハヤテ君は、誰もがとは言わないが目を引く、比較的大きな洋風の家に着いた。2階建てで、離れまである。ヒナギクさんのお宅だ。
 インターホンを押して、応対に出てきたヒナギクさんの義母と挨拶を交わしていた。以下ではヒナママと表記する。
 実際の年齢は著者も知らないが、見た目はまだ30歳前後。茶色いウエーブヘアが揺れる、目がパッチリとした面長のやや線の細い感じの美人である。
 そこへヒナギクさんがやってきた。
「こんにちはハヤテ君、いいところに来てくれたわね。私もこれから作るところだったのよ。さあ、上がって」
 家の中に通してもらうと、毎日掃除しているからなのか、家の中全体が清潔な、同様に床の木目も綺麗なお宅である。清潔感を堪能して2人は台所に直行した。
 室内に入るとこれから作るクッキーの材料だけでなく、ご丁寧に計りやボウルなど調理器具まで全て揃っている。ハヤテ君も材料を用意した。
 直後に2人は下準備として分量を量り予めオーブンを180℃に温めて、小麦粉と砂糖を別々にふるっていた。加えてハヤテ君は買ってきたバターをレンジで温めて溶かした。
 なお今回、ハヤテ君はステンドグラスクッキーを、ヒナギクさんは薔薇(ばら)のクッキーをそれぞれ作っている。

 なお、大雑把な作り方につきましてはお話の中で触れてまいりますし、webサイトにつきましても後述させていただきます。


〔ハヤテ君サイド〕

 本来はバターを1時間くらい常温にしておくが、今回は時間もなく他人の家で作っているので、レンジでバターを溶かすことにする。
 レンジから取り出してクリーム状になるまで練り、砂糖を3回に分けて加え、混ぜていた。流石に昔から家事をこなしており、ケーキ屋のバイトも経験しているだけあって、作業に淀みがない。
 同じように溶き卵を少しずつ加えて混ぜ、バニラエッセンス、下準備した適当な大きさのレッドチェリーやナッツを入れてから、小麦粉を加えてサックリと混ぜた。
それをラップで包んで冷蔵庫にしまったのはいいが、生地を寝かせるだけで30分も何をしようかな。

〔ヒナギクさんサイド〕

 こちらは薄力粉、片栗粉をふるう必要はないので、材料を混ぜて揉むだけでよい。生地を成形するまでは楽だ。
 バター或いはマーガリン、砂糖、バニラエッセンスを同じビニール袋に入れてよく揉み、同様の工程を卵、続いて2種類の粉でも同じ袋で行った。その後食用色素をほんの少しの水で溶かして同じ袋に加え、色の調節をした。
 こちらも冷蔵庫に寝かせる段階まできたので、生地がまとまるまで何をしようかしら?

        ****

 お互いの生地を寝かせている間、オーブンの予熱も成形・型抜きの準備も終わりやることがない2人。そんな時に思い浮かんだのはバレンタインデーの思い出話であった。
「ハヤテ君は歩にあげたのよね。ナギやマリアさんからはもらわなかったの?」
「いえ、西沢さん以外の方からはいただいておりません。お嬢さまはお料理ができませんし、作れなかったようです。逆に、僕に作ってプレゼントしてほしいと要望する始末。
 マリアさんは誰かに作っていたみたいですが、最初に作ったものは何故か壊していましたし、その次には自分用の、鳳凰をかたどった豪華なチョコレートを作っていました」
 この言葉にヒナギクさんは呆れるほかなかった。同じお屋敷にいるので、せめて義理チョコは貰えるはず。それに自分用の豪華なチョコレートとは一体何? そんなものを作って楽しいのか、と。
「…………そういうヒナギクさんは誰かにあげたんですか?」
 暫く沈黙が空間を支配していたが、やがて気を取り直したハヤテ君が勇気を出して問い合わせると、
「ハヤテ君、あなた本当にデリカシーがないわね。そういうことを女の子に聞くものじゃないわよ!」
 叫びながら白桜を召還する生徒会長さん。男の子にあげたのではなく女の子から貰った、などとは言えるわけもない。
「ああああ、ごめんなさい、ごめんなさいヒナギクさん! もう聞きませんからどうか許してください!」
 何気なくいつもの調子で質問するハヤテ君であったが、自らの過ちに気づいて謝った。
 それを心からの謝罪と受け止めたヒナギクさんは、小さな溜息をひとつつきながら矛を収めた。
「まあいいわ。だけどもうこのような発言はしないでね。今度言ったら許さないわよ」
「はい、すみません」
 ハヤテ君は嘆息をつきながら頭を下げたのであった。

        ****

 それから30分後、2つのクッキー生地がまとまったので、型抜きをして、ヒナギクさんは併せて薔薇の成形バージョンも作っていた。
「わぁ~花の形綺麗ですね~。お菓子作りも上手ですね」
 褒められて赤くなっているヒナギクさん。褒められて嬉しくない人がいるだろうか。いや、いない。
 隣には10日前、16歳を迎えた自分の誕生日以来好きになった人がいるので尚更だ。
「そんなことないわよ。それを言うならハヤテ君もハートや星の形が上手くできているじゃない」
「どうもありがとうございます。まあ焼きあがった時の仕上がりが楽しみです」
「それもそうね」
 この時ハヤテ君は一般論を言ったに過ぎないが、ヒナギクさんにはハヤテ君が軽口をたたいたように聞こえた。即ちヒナギクさんの負けず嫌いに火がつき、「お返しする人に対して真心を込める」という人情が薄れている。
 最終工程として、180℃に予熱しておいたオーブンでクッキーを焼くところまできた。
 両方とも2度焼きだ。ステンドグラスクッキーは、砕いた飴玉を入れる前に7分、入れた後に5分の計12分。同様に薔薇のクッキーは焦げ色を防ぐためにアルミホイルをかぶせる前に10分、かぶせた後で10分の計20分焼く。


 ※ここで紹介したクッキーの作り方についてURLを掲載させていただきます。
 文章はさほど変わらないとはいえ、詳細な手順と写真が掲載されていますので参考になるかと思います。

    webサイトのトップページ:http://cookpad.com/

    ステンドグラスクッキー:http://cookpad.com/recipe/3744703
    薔薇のクッキー:http://cookpad.com/recipe/3744567

        ****

 焼きあがったクッキーをオーブンから取り出したところ、綺麗な見た目であった。焼く前に照り出し用の卵黄をクッキーに塗ったためか。
「できましたね」
「そうね、まあこんなところかしら」
 クッキーを冷ましてからプレゼント用の包みに入れる前に試食することにした。
「折角なのでヒナギクさんのクッキーを1枚いただけませんか? それに僕の作ったものを食べていただけると幸いです」
「いいわよ。ならば私からも」
 笑顔で交換しあう中、もうひとつの声が重なった。
「あらまあ、いい匂いがするわね~。もうクッキーができあがったの~? ねえ、もしよければ私にも貰えないかしら?」
「お、お義母さん!?」
「ヒナギクさんのお義母さん」
 驚きの声を上げる2人に対してヒナママはいたって気楽、天然だ。しかし拒否する理由はなく、プレゼントする前に第三者に食べてもらうのもいいと考えていたので、ヒナママの好きにさせた。
「どれどれ、まずはヒナちゃんの作った方から……
 薔薇の形も色も綺麗ね。見た目はすごくいいわ。それじゃあ食べてみようかしら。
(もぐもぐ)んー、美味しいし硬すぎず軟らかすぎずといったところだけど、なんて言えばいいのかしら。何かが足りないような気がするわ」
 見た目と味はよかったのに食感に欠点があると言われ、それまで浮かべていたヒナギクさんの笑みは崩れて激しく動揺した。
 (材料を入れ忘れた? いやいや、予めテーブルの上に全て用意したからそれはないわね。
 それじゃあ混ぜ方が足りないとか? いや、それもない。もしそうなら、特に砂糖を入れた直後の混ぜ方が足りなければザラザラした食感が残るはずよ。
 残ったのは形成と焼きだけど、お義母さんの台詞からしてきちんとできたからそれもあり得ないし……一体何なのよ!?)
「ヒナちゃんすごく悩んでいるみたいね。具体的には私にも分からないけど」
 ヒナママは決して弄んでいるわけではないが、その表情は笑っている。一方ヒナギクさんの方は平常心だけでなく冷静さをも失っている。
「どれどれ、今度はハヤテ君の作った方をもらおうかしら……(もぐもぐ)
 うん、美味しいわね。ほどよい硬さで歯ごたえがあって、美しいハート型や星形なのもいいわね。ヒナちゃんのとは違う感じが、まごころというか温かみがあるわね。『料理は愛情』っていうし」
 この台詞にヒナギクさんは我に返った。思い当たる節がある。
 生地がまとまる間ハヤテ君とバレンタインデーの話をしていたけど、その時に口論になった。その怒りが収まったとはいえ、成形する際には真心が籠っていない気がするし、その直後、勝負じゃないのにムキになった。
 だからヒナギクさんは思い直した。雑念は捨てて、食べてもらう人のためにプレゼントを作ろう。そして私だけではなく、贈る側にも満足してもらえるようなプレゼントにしようと。

        ****

 台所に入ってから3時間30分後、クッキーを作り直したヒナギクさんとそれをお手伝いしたハヤテ君は完成したクッキーを幾つかの包みに入れ、明日の準備を整えた。
 ハヤテ君は準備を終えた直後、ヒナギクさんとヒナママに、台所を借りクッキーを試食してもらったお礼を伝えていた。
「ヒナギクさん、ヒナギクさんのお義母さん。おかげさまでクッキーを作る事ができまして感謝しています。どうもありがとうございました。ご協力がなければ今日中には作れませんでしたよ」
「それはよかったわね。それじゃあ私のことはいいから、明日のホワイトデーにはきちんとその相手にクッキーを届けてあげなさい」
 安堵の笑みを浮かべるハヤテ君に対してヒナギクさんも温かい笑みを浮かべていたが、次の瞬間、彼女の頬が染まった。
「その前にヒナギクさん、ヒナギクさんのお義母さん。これを受け取ってください」
 ハヤテ君が差しだしたのは、たった今まで作ったクッキーのうちの2袋であった。
「ヒナギクさんにはバレンタインデーのチョコレートをいただいたわけではありませんが、ヒナギクさんには本当にいつもお世話になっていますから。お義母さんにも台所を貸していただきましたので、そのお礼です。受け取ってください。僕の感謝の気持ちです」
「いえ、どういたしまして。また困ったときには言ってね、いつでもどうぞ」
 そう言いながら、ヒナママは笑顔で受け取った。
「あはは……あれだけしてもらって、お礼はクッキー1つだけで済まそうって気なんだ?」
 ちょっと意地悪な笑みを向けるヒナギクさんであったが、ハヤテ君のうろたえる表情を見て「勝った」と思ったのか、すぐさま普段の笑顔に戻り、
「ふふっ、冗談よ、冗談。ありがたく受け取ってあげるわ。
 じゃあ来年のバレンタインには、私の手作りチョコレートをあげるわ」
「よ……よかった……来年は楽しみにさせていただきますね。
 それでは、僕はこれで失礼させていただきます」
「待って、ハヤテ君!」
 頭を下げてその場を去ろうとするハヤテ君の背中に、川から流れる水をせき止めるような声が聞こえた。
 振り向いたハヤテ君の視線の先には、何かを必死に伝えたいという思いのヒナギクさんがいた。
「どうしましたヒナギクさん?」
 ハヤテ君を呼び止めたものの、発言内容に重みがあるからか、俯いて顔を赤くするヒナギクさんの口から言葉は出てこない。更に言うと、隣にヒナママがいるからなのか、恥ずかしくて伝えられない。
「あの……あのね、
 月が……綺麗ですね」
「はい?」
 とうとう言えたと内心喜んで顔を赤らめるヒナギクさんに、呆気に取られるハヤテ君、言葉の意味を、娘の言いたいことを理解して背景をピンク色にするヒナママ。三者三様の反応である。

 ここで「月が綺麗ですね」の意味するものが分からない人のために解説すると、旧千円札の画像で夏目漱石(なつめ そうせき)が、「I LOVE YOU」を日本人独特の奥ゆかしさを込めてそう訳した言葉である。つまり「好きです」と遠回しに言っているのだ。
 知的な彼女らしい。

 とはいえ、突然そう言われても理解できるわけもなく、ましてや相手があまりにも鈍感なので伝わらない。「好きです」と素直に伝えなければ彼には通じないだろう。
 ハヤテ君から何の反応も返ってこないので、返事を待っているヒナギクさんは別の感情で赤くなり始めていた。
「あの、さっきの言葉ですけどどういう意味ですか?」
 思わずハヤテ君の質問にキレるヒナギクさん。
「もう! この言葉の意味が分からないの!? 『ハヤテ君のことが好きです』って言いたいのよ私は!」
 肩で息をつくヒナギクさんを、ヒナママがくすくすと笑いながらなだめている。
 ハヤテ君は暫く悩んでいたようだが、やがて意思を固めたようだ。
「分かりました。それではまだ知り合って間もないので今は彼氏としてではなくお友達として、それから恋人同士としてお付き合いさせていただきます。そういうことでよろしいでしょうか」
 傍から見ると半分は成功だ。ところがヒナギクさんにとっては不満らしい。
「そんなの嫌! すぐにでも彼氏になってほしいの、お願いハヤテ君!」
 また負けず嫌いが発動したようだ。
 これまで男の子との付き合いに興味を示さなかったとはいえ、学院のアイドルに告白されるだけで幸せである。だがタイミングが悪いことに、ハヤテ君の言うように2人が知り合ってそれほど経っておらず、お互いに相手についてまだ知らない事が多いのでハヤテ君は首を縦に振れない。
「そう言われましても、何事にも正しい順序というものがありますよ。まだお友達になって日も浅いですから、まずは仲を深めていきましょう。
 恋人同士の関係になるのはそれからでも遅くないでしょう」
 ハヤテ君の筋が通った言葉にヒナギクさんは口ごもった。
 確かにそうだ。ハヤテ君とヒナギクさんが出会ったのは今年新学期が始まって間もなくだから、まだ2か月しか経っていない。チャー坊を助けた時が初対面だから。
 それにヒナギクさんがハヤテ君を好きだと気づいたのは3月3日のヒナ祭り祭りなので、あれからたった10日。その間、お友達らしいことは何ひとつしていない。突然恋人同士になるのはいくらなんでも無理がある。
 付け加えると、まだどちらもそれほど愛情を注いでいないので、ハヤテ君の対応は致し方ないといえる。
 ヒナギクさんにとっては学校でも2人きりになれるチャンスはそうそう巡ってこないので、ヒナママが立ち会っているとはいえ、この告白をものにしたい。
 果たしてヒナギクさんの結論は……?

        ****

「やっぱり恋人から始めたいわ! お願いハヤテ君、ずっと私の傍にいて!」
 感情が爆発したかのようにハヤテ君に迫った。
 ハヤテ君は溜息をつきながら残念そうに、
「すみませんがお受けできません。
 確かにヒナギクさんは成績や人間性についても評判がいいです。
 けど僕はそれよりも、優しさはもちろん必須ですが気持ちが安らぐ、愛情を注いでくれる人と一緒にいたいです。わがままな人は好みではありません。
 それでは失礼いたします」
 そう言い残してハヤテ君は桂家を後にした。
 後に残されたのはヒナママと、落胆した少女であった。
 ハヤテ君が桂家を去ってから、彼に告白を断られたヒナギクさんをヒナママが諭していた。
「ヒナちゃん、傍で聞いていたけどあれはハヤテ君の言い分が正しいわよ。
 新学期になって初めて出会ったのなら、1つずつステップを踏むべきだと思うわ」
 この言葉にヒナギクさんはやりきれない思いと絶好のチャンスを逃した後悔で胸がいっぱいになった。
「ハヤテ君……私はあなたの事を諦めないわ!」

        ****

 3月14日、ホワイトデー当日。
 授業が終わり午後4時30分過ぎから潮見高校の校門前で、歩さんがハヤテ君の到着を今か今かと待ちわびていた。ハヤテ君との約束を信じて、ここで待ち合わせていた。
 約束について用件は聞かされておらず、ただハヤテ君から
「歩さんにお願いがあります。
 今日の夕方5時に潮見高校に行ってもよろしいでしょうか。大事なお話がありますから!」
 という文面のメールをお昼休みに、4時間程も前に受け取っただけだ。
 敏感な彼女も「OK! じゃあ夕方5時に校門で待っているよ!」と返信したところをみると、何があるのかは想像ついているようだ。
 下校する生徒たちが時々、1人で校門にいる歩さんを見ていたが、歩さんはそんなことを気にしていなかった。 ハヤテ君の事しか眼中にない歩さんにとって、彼女の現在の心境は「早く来てほしい」という期待する一方で、「本当に来てくれるかな」という不安になる方が大きかった。

 それからおよそ10分後、約束通り包みを持った少年がダッシュで向かってきた。
「西沢さん! 待たせてしまいましたか?」
 約束通り来てくれたので、ハヤテ君を信じて待っていた甲斐があった。それに想い人に会えたので、息をつく少年に向かう少女の表情は晴れ晴れとしていた。
「ハヤテ君……」
「あの……バレンタインのお返しはいらないと言っていましたけど、チョコレートを貰えて嬉しかったですから、これを受け取ってください」
 そう言いながら懐から取り出したのは、昨日ヒナギクさんのお宅で歩さんへの愛情を込めて作ったクッキー。
 それを差し出され、受け取った歩さんの顔はお返しを貰えた嬉しさと想い人からのプレゼント自体に対する喜びに満ちあふれていた。
 受け取ってもらえたということでハヤテ君も満面の笑みを浮かべていたが、心なしかまだ緊張しているようだ。
「それからもうひとつ、お返しをしたいのですがよろしいでしょうか」
 そう言われた歩さんは眉を顰めた。他に何かあるのかなと。
「歩さん、1か月も遅れてしまいましたがお返事をさせていただきます。
 先日外泊させていただいた時もそうでしたが、歩さんは優しく一緒にいて安らぐ存在です。
 僕はそんな歩さんが好きです! こんな僕ですが、お付き合いしていただけませんか!?」
 突然の告白に、歩さんはこの上なく、林檎のように真っ赤になった。無理もない。先月のバレンタインデーの際にハヤテ君に想いを伝えたお返しが、告白なのだ。

 先にも述べたように、歩さんは入学当初、ハヤテ君に命を救ってもらって以来、ずっと彼を想い続け、好意をアピールしていた。遊園地にデートに誘うだけではなく、バレンタインデーにもチョコレートを渡し、今回の件とは別に告白までしているので、ハヤテ君に注いている愛情は並大抵のものではない。これほどまでに長い期間、純粋に同じ人を想い続ける彼女は素晴らしく、立派だ。
 これがハヤテ君の心を動かした最大の要因と言える。

 もちろん歩さんの返事は……
「ありがとうハヤテ君。ハヤテ君がそう言ってくれるのをずっと待っていたんだ……うっうっ……私も漸く報われたよ……
 私こそ、これからもよろしくねハヤテ君。今後は恋人同士として。これからは私のこと『歩』って呼んでほしいよ」
 届いた想いに歩さんは思わず嬉し涙を流しながら、漸く誕生した恋人に抱きついた。するとハヤテ君も、新たに誕生した彼女を優しく抱き寄せて頭を撫でていた。そのまま2人はお互いに唇と唇を交わした。なんとも微笑ましい。
 東京に白い雪が舞い始めた日、文字通りホワイトデーのことであった。

Fin.























あとがき

 こんにちは、瑞穂です。
 このSSは、ひなゆめファンの止まり木 http://soukensi.net/perch/ の第9回クイズ大会にて惜しくも上位を逃したものの、執筆権を譲っていただいて執筆し、第9回合同小説本のひとつとなった作品です。
譲っていただいたからには皆さんが読みやすいSSを書こうという気持ちで執筆させていただきました。
 しかし書き始めてから2週間で、手直しを含めて構想と執筆が終わったというのに、推敲だけでそれだけの時間を取られるというのは大変でした。

 いつものようにカップリングという著者が最も好きなジャンルを選択しましたが、今回は単行本8巻でハヤテ君が一時的に外泊するお話と、同12巻のホワイトデーの原作IFといたしまして、歩さんを主人公にハヤテ君とヒナギクさんを絡ませてみました。大好きなキャラクターなのでぜひ書いてみたいなと。
 しかし読み返すとハヤテ君がメインになっているような気がしますが、このあたりはまだまだ私の修業不足ですね。人物描写や情景描写なども含めて。
 3月後半の書き出しからどうして遡ってばかりで未来に進まないのか、につきましてはホワイトデーをエンディングと決めていたためですので悪しからずご了承ください。

 しかしバレンタインデーに女性が男性に愛の告白をするというのはよく聞きますが、ホワイトデーに男性から女性に告白するという話はあったのか不安もありました。ですがお返しをする日なので別にいいですよね、男性が女性に愛を伝える日があっても(笑)
 あと、最初の構想としてはハヤテ君を居候ではなく西沢家の養子に迎え入れる予定でしたが、話が噛み合わないので断念しました(笑)

 それでは最後に、拙作について転載の許可をくださいました、ひなゆめファンの止まり木の双剣士さん、掲載していただいたNobuさん、そして読んでいただいた皆さん、どうもありがとうございました。

瑞穂
[ 2016/06/18 23:59 ] SS | TB(0) | CM(0)
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Author:Nobu
血液型:B型

ハヤテ君がとっても大好き。ハーたんよりはハヤテ君。アニメ・漫画が大好き。水樹奈々さんと茅原実里さんの大ファン。好きな声優は白石涼子さんと植田佳奈さん。好きなゲームは任天堂全般,falcomの軌跡シリーズ,ドラクエ,ソニック,風来のシレンなど。最近は艦これの五月雨ちゃんが可愛くて仕方のない提督。

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